看護師になろうと思ったきっかけ4
それは忘れもしない11月3日、トルコに行って来て1ヶ月もたたない頃のことであった。夜、自宅で母と話をしていた時のことである。話の中で、母が何気なく「そういえば、今度うちの近くに看護学校ができるらしいよ。今までうちの市には高看(高看護師)の学校がなかったからすごいよね〜」というようなことを言ったのだ。今考えると、母がなぜ私にそんな話をしたのか不思議である。私は一度も母に看護師になりたい、などという話をしたことはなかったからだ。いや、むしろ、私はことあるごとに私がやりたくない仕事No.1は看護師だと言っていたくらいだからだ。人の命に関わる仕事なんて真っ平だったのだ。
それなのに、なぜかその時その話を聞いた私は、全てがつながった気がしたのだ。“そうだっ!なぜ今まで気づかなかったのだろう。私が看護師になればいいんだ!これで手に職もつけられるし、人間の健康についても勉強できる。青年海外協力隊だっていけるかもしれない!”ここで、今までの思いがすべてつながったのだ。本当に、金色の道筋がぴーんと真っ直ぐ向こうまでつながったような気がし、目の前が突然パーっと明るく開けた瞬間だったのだ。今まで考えていた全ての事柄の答えをもらったような気がしたのだ。一種の悟りのような瞬間であった。
直後「じゃあ私がその学校に行こうかな」と、自分でもびっくりするくらい、自然にその言葉が口をついて出た。それを聞いた母親の反応にもびっくりした。就職して3年経ち、やっと安定した、いい年をした娘がこんなことを言い出したら「何をふざけたこと言ってるの、いい加減結婚でもしなさい」とでも言われそうだが、私以上に「絶対そうしなさい。すぐ仕事を辞めてそうすべきだ」と言い出したのだ。
この反応に、私の方がうろたえた。私はすぐに仕事を辞めるとは考えていなかった。受験しても受かるかどうかわからないんだから、すぐではなく次の年受けるよ、などと言っていたが、母と父はそろって、「だめだ、今すぐ辞めて来年の4月の第1期生になれるように勉強しろ」と強く薦めて来たのだ。二人が言うには、本当は私にこそ看護師になって欲しかったのだという。それに、思ったことはすぐに行動に移さなかったら、やる気もなくなってしまうからだという。この時の両親の考えは正しかった。“鉄は熱いうちにうて”なのである。あのまま来年受けよう、などとのんきなことを言っていたら、結局受けずに終わったおそれもある。
両親の言葉に“なるほど”と思った私は、とても言いにくかったが、次の日には所長に退職願いを出した。我ながらすばやい行動に驚きながらではあった。そしてこれが一番難しいことであった。なぜなら、所長にはとても良くしてもらっている。社会保険労務士になりたいという私を、全面的に応援していてくれた。なのに、突然辞めると言い出すのだ。こんなこと言わなくて済むなら言いたくない、と何度も思った。でも、自分の決めたことだ。勇気を振り絞って言った。
突然私に退職を告げられた所長は、本当に面食らっていた。しかも、私が「看護師になるため」というのを聞いた時はさらに面食らったと思う。なぜ私が看護師なんだ、と思っただろう。今まで一言も言ったことがない言葉だ。しかも私は看護師といったタイプの人間ではない。「なぜ看護師???」と頭の中が?マークでいっぱいになっていたことと思う。
結局、「しばらく考えさせてください」と言っていたが、私が決めたことだしとすぐに受け入れ、私を応援してくれたのだ。本当に嬉しかった。そして、今でも感謝の気持ちでいっぱいである。
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